孤高の天使



「例えこの幸せが苦難の上に成り立ったといえど、過去の日々は死も等しかった。君がいない世界なんて考えられないんだよ、イヴ」

「私も、です。ラファエル様がいない世界はもう考えられない」

「イヴ」


真摯なアメジストの瞳に魅入られ普段なら言わない台詞を口にする。

ラファエルは私の言葉に一瞬驚いたが、すぐに柔らかな笑みを見せた。

魔界の頂点に立つ魔王がこんなにも柔らかな表情を見せたことに皆我が目を疑い黙り込んでいる。

ラファエルは気にした様子はないが、私は皆の視線が痛いくらいに向けられていることが分かり、居た堪れない気持ちになった。



「ほ、ほら、ラファエル様離れて。皆見てるから」


真っ赤にした顔を悟られまいと心を落ち着けながらラファエルから離れ非難するが、ラファエルはふてくされた子供の様に不本意な顔をしていた。

それに知らないふりをしてグイグイと押し返し、何とか離してもらう。




「イヴ様の事になると本当に周りが見えないんですから」

「魔王様の愛は異常すぎるくらい重いんですからちょっとはイヴ様のお気持ちも考えませんと」

「魔王様ってこういう人だったんだ」


好奇な者を見るルルの目と、双子の悪魔に小言交じりの注意を好機とばかりに一歩引くと、益々ラファエルの顔が不機嫌に歪んだ。

不機嫌な表情の奥に少し哀しげな色もちらついた気がして罪悪感が襲う。

けど、人前であんなにスキンシップを取るなんていつになっても慣れない。

免疫はあるはずなんだけどな、などと過去を思い出しながら頭の中で呟く。

頬に集まった熱をぼうっと感じながら空を見上げていると、何かがこちらに向かってくるのが見えた。




白に近い白銀の毛並みを風に靡かせ颯爽と天をかけるそれは…―――



< 396 / 431 >

この作品をシェア

pagetop