孤高の天使
「これはまずいわ」
「け、けど魔王様ならこんな聖剣の一つや二つ平気でしょ!?」
リリスがイリスに詰め寄るよるように問いかけるが、イリスはただ無言で唇を噛んだ。
大丈夫と言ってほしい、平気だと言ってほしいと言葉として出てこない想いが苦しいくらいに締め付けられた胸中を巡る。
「何とか言ってよイリス!」
悲鳴のようなリリスの声に白くなるまで唇を噛んだイリスが首を横に振った。
瞬間、堰を切ったように涙が溢れ、先ほどまでの幸せな気持ちが嘘のように頭が真っ白になった。
「神様ッ…ラファエル様がっ…」
ルルに付き添われて傍に来た神にすがるような声を向ける。
「これは……」
しかし、神はラファエルの傷口を見てそう呟いたきり口を閉ざした。
「相当な深手だな。もう魔力が感じられないほど弱っている。もってあと数分だな」
「ガブリエル!あんた何を他人事のように!」
「しょうがないだろ。今まで俺たちの敵だったんだから、他人事にもなるさ」
非情なガブリエルの言葉に反論する力もないくらいに絶望に襲われていた時だった。
「いくら魔王といえど摩耗した状態、しかも天界に在っては最早回復も出来まいか…」
憂いを帯びた、気だるげとも取れる声が聞こえ、次の瞬間濃い霧と共に現れた者に驚嘆した。
「ハデス様?」
灰色の瞳が特徴のその人の名を呼ぶと、ハデスからは驚いたように「良く覚えていたな」と返される。
「ハデス、どうやって入ってきたのです」
「こんな結界の薄い天界、小悪魔でも入ってこれますよ?」
驚いたことに神とハデスは知り合いの様だった。
短い会話の中にみせた親しげな様子に誰も関係性を問えないままにハデスが口を開く。