孤高の天使
「事の成り行きは冥界から見ていた。貴方の力はかなり弱まっているようだ。残りの時間が短いというのもあるが、相当な聖力を根こそぎ奪われたのも原因だろうな」
やや口早にしゃべりながらラファエルを見下ろすハデス。
「それでは治癒も出来まい。…と言っても、もう遅いがな」
他でもない冥府の王が口にする“もう遅い”という言葉に心臓がドクンと嫌な音を立てる。
「イヴ、俺が来たということは…分かるな?」
言い聞かせるようにしてゆっくりと吐かれた言葉にビクリと肩が跳ねる。
「時間だ」
死の宣告の様なそれにハッと我に返って、ラファエルに手を伸ばすハデスの腕を掴む。
「ハデス様…いや…ラファエル様を連れて行かないで」
「イヴ、人間と天使や悪魔に寿命の差はあれど“死”は平等にある」
ハデスは私の手を振りほどくことはせず、落ち着いた口調で諭す。
「俺は“死”を司る冥府の王。迷わないよう導いてやるのが俺の務めだ」
「ラファエル様は…死ぬの……?」
「あぁ」
恐る恐る聞いたその言葉にハデスは少し声を落として応えた。
「いや…だめ……やっと記憶が戻ったのに。ずっと一緒だって、もう離れないって約束した…っ」
「ハデス、ラファエルを冥界に連れて行くのは待ってくれませんか?」
突如として割って入った神の申し出にハデスは如何ともいい難い表情で眉を寄せる。