孤高の天使



そして次の瞬間には、私の体はビュンビュンと風を切って落ちていた。

咄嗟の判断で六枚になった羽を広げ、落下速度を下げるが、それは気休め程度にしかならず、落ちていく体は止められない。

これは間違いなく空間転移であり、何故こうなったのかは身に覚えがある。



思い出されるのは10年前、ラファエルの元へ向かおうとルーカスの造った転移陣に飛び込むときに受けた衝撃だった。

アザエルは触れたものを好きな場所、タイミングで別の空間へ移動させることが出来る。

きっとあの時背中に受けた衝撃は、空間転移の能力を発動するための仕込みだったのだ。

現に、私がここに飛ばされる前、アザエルは天使たちを空間転移させてきた時のように指を鳴らした。

そして、空間転移によって私を死に至らしめると口にしたということは、私が落ちる先には人間界があるのだと思う。




人間界には私の思念体が通じる人もいないし、通じたとしても受け止めるだけの力はない。

うっすらと目を開いてみると、視界は灰色でいっぱいで、雲の中を落ちているのだと分かる。

体が落下する感覚には相変わらず慣れず、体はたちまち強張る。

まだ背中から落ちている分、下を見ずに済むが、この雲を抜ければ否応がなしに視界がひらけ“底”が目に入るだろう。

その光景が頭の中で再生され、ゾッとするような恐怖が襲う。




大丈夫よイヴ…慌てず、心を鎮めるの。


ドクン、ドクンという心臓の音を聞きながら恐怖に震える自分に言い聞かせるように念じる。

神に聖力をあげた時から、こうなることを想定していなかったわけではない。



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