孤高の天使
『ラバル!』
目を瞑り、轟々と雲を切り裂く雑音を振り切るように心の中で強く念じた。
飛べない天使に戻ってしまった私にただ残されたのは癒しの能力とこれだけ。
『私はここよ』
叫んだ瞬間、轟々という大きな音が少し和らぎ、視界が明るくなった。
目を瞑っていても光が差し込んでくるということは、今は夜ではなさそうだ。
と、呑気なことを考えている暇などなく、広げた六枚羽をはばたかせる。
目を開けたら最後、その高さに体中の力が抜け、地面に吸い込まれる様に落ちるので目を閉じたまま羽を動かし続ける。
けれど、それは長くは続かなかった。
神殿へ続く長い階段からラバルと別れ、神殿までの距離を飛んだだけなのに思ったよりも聖力を消費していたようだ。
羽は無駄に多いくせに難儀な体だと頭の端で思いながら、聖力が切れる寸前で羽を動かすのを止めた。
このまま飛び続けても残りの滞空時間は限られている。
ならば、地面に叩き付けられる寸前で最後の聖力を使って衝撃を和らげよう。
そう思った時だった――――
頭上からものすごい速さで風を切る音が聞こえた。
ラバルが来てくれたんだ、そう思って恐る恐る目を開く。
瞬間、我が目を疑って息を飲んだ―――
視界に入ったのは青い空や白い雲でもない…漆黒の六枚羽。
「そんなはずない…」
小さな声で呟いた言葉は風音で書き消えた。
目の前で手を伸ばしているその人は、私が見せた都合のいい幻だ。