私の愛した人
服を選んでお風呂をあがって、ヘアメイクを始めた頃にお母さんが私の部屋に入ってきた。

「桜。彼氏くん来たわよ?」

「うっそ!?」

時計はもう十時をさしている。

圭吾が来ていてもおかしくない時間だ。

でも、お風呂あがったばっかで髪も乾いてないし、リップすら塗ってない…

「リビングで待ってもらって!」

焦ってお母さんに大きな声で頼みながらドライヤーのスイッチを入れる。

お母さんがなにか言っていたけど、ドライヤーの風の音で声がかき消されてまったく聞こえない。

無視して髪を乾かしていると、いきなり頭を後ろからガシッとつかまれた。

「お母さん今急いでるんだから!」

そう言って振り向くと、怒りのオーラを溢れんばかりに振りまいている圭吾の笑顔があった。

「待てないから部屋に行くって聞かないのよ」

圭吾の後ろからお母さんの楽しげな声が聞こえる。

━━お母さんのバカァァァァ!!!

「け、圭吾…今、髪乾かしてるから…」

圭吾はにっこり笑ったまま、近くにあったバスタオルをつかみ…

「髪なんてこうやって乾かせばいいだろッ!!」

大声でそういいながら私の頭をグシャグシャと乱暴にふいた。

「イヤァァァァー!!!?髪がグシャグシャになるぅぅぅー!!!」

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