幕末仮想現実(バクマツバーチャルリアリティー)
「ようはやる気じゃ」
「…」
白石さんは、きちんと正座したまま、真っすぐ高杉さんを見つめて話を聞いている。あたしも正座して聞いたほうがいいかな。
「兵には正奇があり、戦いには虚実がある。その形成を知るものが勝者となる」
…ん〜、何言ってんのか意味わかんない。
「今、我々が編成しようとする軍は、少ない兵力で敵の虚をつき、神出鬼没、敵を悩まし、常に奇道をもって勝ちを制するのを目的としちょる」
「…それで」
「従って、身分を問わず、有志を集め、この軍を『奇兵隊』と命名しようと思うちょる。…どうじゃろうか」
いつになく、高杉さんの目がマジ。要は武士じゃない身分の人にも戦わせようって事かな。
「…」
白石さんは、しばし、目を閉じた。
そりゃあ、今初めて聞いた話に武士でもない白石さんが、『どうじゃろうか』って聞かれても、いいか悪いかなんて言えないよね。
あ、目を開けた。
「では、奇兵隊の最初の隊員に私がならせてもらえるじゃろうか、高杉さん」
「白石さんっ!」
え?
「私に出来ることなら、なんなりと言って下さい。私の資産全て、高杉さんに捧げさせて頂く事にしましょう」
「白石さん、恩に着る」
ぎょえーっ!!!
このおっさん、何考えてんのよーっ。
『資産全て捧げる』って正気なの?
高杉さんって、まだ20代でしょ?
今日が初対面で、自分の半分ぐらいの人の言う事なんかに、すんなり納得しちゃって。
しかも、この時代って、いくら幕末とはいえ、江戸時代なわけだし、士農工商の身分制度だって、まだ、バリバリなんじゃないの?
そんな時に身分を問わない軍なんて、認められるはずが…、あっ、でも、高杉さんは、藩になんとかしろって言われてやってるんだから、認められるわけよね?
なんかめちゃくちゃだなぁ、長州藩。

話がまとまったところで、二人はお酒飲み始めちゃった。
っああ!もしかして、なんで高杉さんがこの超金持ちの白石さんとこに来たかっていうと、最初っから、白石さんの資産を狙ってた?
けど、白石さんの顔。美味しそうに飲んでるこの顔。
あたしには考えられない事だけど、白石さんは何故高杉さんが、自分を訪ねてきたか、最初っからわかってて、高杉さんに会って、話を聞いて、本当に高杉さんに資産全て賭けていいって思ったんだろうな。
なんなんだろうこの感覚。
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