僕の愛した生徒


帰りの車の中。

助手席に座る奈菜は満足げな表情を浮かべて、シュウを抱きしめている。

そうして、車を走らせること一時間。

奈菜はシュウを抱きしめたまま寝息を立て始めた。



奈菜が寝てしまうなんて珍しい。

よほど、疲れたのかな?


僕はステレオのボリュームを下げ

信号待ちの間に、そっと奈菜の腕からぬいぐるみを抜き取ると、後部座席へ置いた。


そして、僕はあどけない顔をして眠っている奈菜を横目に、缶コーヒーを口に含んでアクセルを踏んだ。



それから、更に一時間。

車はスムーズに走り続け、予定よりも早く地元に到着した。


でも、僕はまだ奈菜と離れたくなくて、

暗くなれば夜景の見える場所まで車を走らせた。



車が駐車場に着き、サイドブレーキを踏むと、

僕は無防備な寝顔にそっと触れてみる。



こんなに穏やかな奈菜との時間を過ごしたのはどの位ぶりだろう?


僕はその寝顔に無邪気に笑う奈菜を思い出す。

最近では、いつも不安そうに、切なそうな瞳をしている奈菜。


たったの数ヶ月の間で

僕たちが背負うものは大きくなってしまった。

それが高校生の奈菜には少し重過ぎたのかな……



まだ、無邪気に笑い合えていた夏が懐かしい……


僕は奈菜の唇にも触れてみる。

それに、奈菜は重そうな瞼を開けると目をこすり“秀?”と、まだ眠そうに僕を呼んだ。


「なに?」

「私…寝ちゃってた?」

「それはそれはもう気持ち良さそうに」


僕は奈菜に冗談ぽく言う。


「ごめん……」

「なんで?
気にしなくてもいいよ」

「でも、秀と二人で居られる時間だったのに……」

残念そうに話す奈菜。

「また、いつでも会えるよ」


僕はそう言って、奈菜の頭を撫でていた。

すると奈菜は突然ハッとしたように“シュウは?”と、それを探す。


「シュウは後ろにいるよ」

そう答えると、奈菜は後部座席を振り返り、それを取ろうとした。

でも、僕はその手を止める。


奈菜は不思議そうに僕を見つめ、

僕はそんな奈菜の髪に触れる。



「今はシュウが邪魔になるから」

「なんで?」


首を傾げた奈菜に顔を近づけ

「だってシュウがいたらキスしにくい」


そう囁いて唇を重ねた。
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