僕の愛した生徒
僕たちが車内で話をしていると、
いつの間にか辺りは薄暗がりになり、
そこから模型のように見える建物には少しずつ明かりが灯り始めていた。
「そろそろ帰ろうか」
それに小さく頷く奈菜。
この瞬間に僕の切なさは一気に込み上げる。
それはこの時を繰り返す度に増していく。
『帰ろう』
この言葉は結婚をしていない僕たち恋人にとっては当たり前の言葉。
なんのしがらみもなければ何でもない言葉。
けれど、今の僕にとっては一番辛い言葉。
だって
この言葉は僕たちが先生と生徒に戻る合図だから……
そして
僕は思い知るんだ。
奈菜との間にあるものを……
大抵は僕から切り出すようにしている。
奈菜からは切り出してほしくないから。
特にこんな穏やかな日には……
僕はもう一度
奈菜の髪に触れ
頬に触れる。
そして
僕の親指が奈菜の唇をなぞり
触れるだけのキス。
奈菜の切なそうな瞳が揺れた。
僕は奈菜に微笑みかけて、いつもとは違う感触の奈菜の髪を梳きながら囁いた。
「奈菜はやっぱり今日の髪型よりも、ストレートの方が似合うよ」
「私にパーマはまだ早い?」
苦笑いを向けた僕に、俯くことで応えた奈菜。
「学校が始まるまでには元に戻せよ?」
僕が軽い口調で話すと、奈菜は俯いたままで
「……それは校則違反だから?」
と、静かに聞いた。
「そうだな。
学校で奈菜を指導するのは嫌だからな」
僕はそう答えたが、本当はそんな理由じゃない。
でも、その髪型が“元カノと同じだから”なんて奈菜に言える訳もない。
だから、僕はこんな答え方しか出来なかった。