僕の愛した生徒


傾いた日が僕たちを照らす。


何も言えない僕と

儚く微笑む奈菜。


「私…数ヶ月間だけだったけど、
秀の傍にいられて幸せだったよ」


「僕だって…奈菜といられて…」



…幸せだったよ……



最後の言葉は何故か声に出せなかった。



校庭から聞こえる野球部の声が
僕たちの存在を隠すように響く。



「秀…
今までありがとう。
ばいばい」



奈菜は震える瞳で

最後まで微笑んでいた。


そして

僕に背を向ける。


奈菜の後ろ姿は

僕たちが出逢った頃のような
何も持たない背中とは

もう、違う……



僕は遠ざかるその背中を見届けて

静かに目を閉じた。





奈菜…


僕は君を

本当に愛していたんだろうか?





僕の脳裏を奈菜との思い出が
走馬灯のように駆け巡る。



奈菜は全て知っていて……

それでも良かったと微笑んだ。

幸せだったと笑ってくれた。


奈菜は確かに

僕だけを見ていてくれた……




何も気づけなかった僕は

この数ヶ月、奈菜の何を見てきたのだろう?


今となっては本当に愛していたのかさえも分からない。


でも

僕だって

奈菜のことを想っていた……

ずっと見ていた…と、思う。


辛く苦しかったけど

確かに僕は幸せだった……



それでも

僕はどうしても、奈菜の過ちを
許すことは出来ない。



奈菜…こんな僕を許して……?



僕は静かに目を開けた。
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