僕の愛した生徒


僕はほとんどの部が活動を終え、学校が静まった頃を見計らい合宿所へ向かった。


そこから漏れる光は、奈菜がそこにいることを示していて、

僕はその光を確認すると、コーヒーとミルクティーを買って奈菜の元へ行った。




「奈菜」


僕が声を掛けても奈菜は知らんぷり。

でも、顔は赤く染まっていく。



奈菜は僕が“奈菜"と名前を呼ぶたびに頬を赤くする。



付き合い始めた頃の玲香もそうだったな…



僕は奈菜のその顔が見たくて、何度も名前を呼んだ。



「奈菜」


「何?」


奈菜は素っ気なく僕の方を向く。


「何で怒ってるんだ?」


「先生の胸に手を当ててよ〜く考えてみて」



僕はふざけて、自分の手を胸にあて考える素振りを見せる。



「先生なんか、もう嫌い」

奈菜は頬を大きく膨らませ、プイッと顔を背けた。


「ごめん。冗談だって」


焦る僕に奈菜は


「じゃあ何で私が怒っているのか分かる?」


と何故か得意げ。



「それは……」

「それは?」


聞き返す奈菜は、僕の答えに期待を寄せる顔。



昼間、僕が奈菜をからかったことを怒っているんだろう。


でも僕は知らないフリをする。



奈菜の怒った顔をもっと見ていたいから。

玲香に会えるから…



「分かんない」



「もう本当に本当に先生のことなんか知らないんだから」



奈菜は拗ねるようにして、僕に背中を向けた。
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