僕の愛した生徒
その中で突然、開いた部屋の引き戸。
僕たちは会話を止めて固唾を呑む。
入って来たのは僕と同じ英語科の男の先生で、その先生は
「すみません。補習中でしたか?
ちょっと教材を取らせて下さい」
と僕に声を掛け、その部屋にある棚をゴソゴソし始めた。
僕は然(さ)も英語を教えるフリをして、奈菜のノートに
[教科書を持って来ていて良かっただろ?]
と書いた。
それ見て頷いた奈菜。
[この為の教科書だったんだね]
奈菜が書いて、今度は僕が頷く。
僕たちはその先生がこの部屋を出て行くまで、補習のフリをしながらノートで会話を続けた。
再び、二人だけになった視聴覚室。
僕たちは廊下の足音が聞こえなくなった事を確認して
顔を見合わせクスクス笑い合う。
「なんかドキドキしちゃった」
奈菜はイタズラをした後の子どものように笑った。
「教科書が役立っただろ?」
僕が得意に言うと奈菜は
「うん。教科書もこんな使い方があったんだね」
と楽しそうに話した。
「今日はこの部屋を補習目的に使っているから、鍵をかけられないんだ」
“そうなんだ”
と納得の色を見せる奈菜の顔。
「それに、鍵がかかった部屋に生徒と二人きりってのも問題だろ?」
僕の尤(もっと)もらしい言葉に奈菜は感心して見せて
「悪い先生だね」
と笑った。
その日はもう、僕たちの事を邪魔するものは何も無く、
僕たちは二人で出掛ける計画を立てた。