僕の愛した生徒


その中で突然、開いた部屋の引き戸。


僕たちは会話を止めて固唾を呑む。


入って来たのは僕と同じ英語科の男の先生で、その先生は

「すみません。補習中でしたか?
ちょっと教材を取らせて下さい」

と僕に声を掛け、その部屋にある棚をゴソゴソし始めた。



僕は然(さ)も英語を教えるフリをして、奈菜のノートに

[教科書を持って来ていて良かっただろ?]

と書いた。

それ見て頷いた奈菜。

[この為の教科書だったんだね]

奈菜が書いて、今度は僕が頷く。


僕たちはその先生がこの部屋を出て行くまで、補習のフリをしながらノートで会話を続けた。




再び、二人だけになった視聴覚室。


僕たちは廊下の足音が聞こえなくなった事を確認して

顔を見合わせクスクス笑い合う。


「なんかドキドキしちゃった」


奈菜はイタズラをした後の子どものように笑った。


「教科書が役立っただろ?」


僕が得意に言うと奈菜は


「うん。教科書もこんな使い方があったんだね」


と楽しそうに話した。


「今日はこの部屋を補習目的に使っているから、鍵をかけられないんだ」


“そうなんだ”
と納得の色を見せる奈菜の顔。


「それに、鍵がかかった部屋に生徒と二人きりってのも問題だろ?」


僕の尤(もっと)もらしい言葉に奈菜は感心して見せて


「悪い先生だね」


と笑った。



その日はもう、僕たちの事を邪魔するものは何も無く、
僕たちは二人で出掛ける計画を立てた。
< 67 / 207 >

この作品をシェア

pagetop