僕の愛した生徒


僕たちは駐車場を抜け、
入場ゲートが見えてくると、奈菜は足早になって僕の前を歩き、何度も振り向いては


「先生、早く〜」


と僕を急かせた。


「奈菜、そんなに急がなくても、動物園は逃げないから大丈夫だよ」


僕は呆れるように笑う。


「分かってるけど……
そうゆう問題じゃないの!」


はやる気持ちを顔に貼り付けている奈菜。


「じゃあどうゆう問題なんだ?」


僕がイジワルに尋ねると、奈菜は
“いいから、いいから”
と笑って僕の腕を引っ張った。



そして、辿り着いた入場ゲート。

僕はそこで二人分のチケットを購入し、その一枚を奈菜に手渡す。


すると、奈菜は
“いくらだった?”
と鞄から財布を取り出した。


「そんなのいいよ」


僕がそう言うと
“でも……”
と奈菜は戸惑いを見せ、財布をしまおうとしない。


「奈菜は僕の彼女なんだから遠慮しなくてもいいんだよ。
素直に受け取りなさい。

それに、僕はこう見えても一応、社会人なんだから……なっ?」


まだ躊躇っている奈菜。


「ちなみに僕の職業は教員なんだけど…奈菜は知ってた?」


僕がイタズラに訊くと


「知ってる」


奈菜はいつもの顔に戻って
“ありがとう”
と、はにかむような笑顔を僕に向けた。



その後で、ゲートを潜(くぐ)ろうとする僕。


すると奈菜はそんな僕を止めて、
鞄からデジタルカメラを取り出し

徐(おもむろ)に動物園の看板や景色を数枚撮っていった。



「僕が撮そうか?
そうすれば奈菜も入れるよ?」


僕がそう言うと


「ありがとう。
でも、いいの」


と奈菜は笑った。
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