僕の愛した生徒
その様子を見た僕は、奈菜の待つベンチに駆け足で近づいた。
そして、僕は奈菜の前に立つ。
奈菜は僕を見上げ
「先生、ごめんなさい」
そう言うと目を伏せた。
僕は奈菜の隣にゆっくりと腰を下ろす。
「気にするな」
「こんな所で“先生”なんて呼んじゃダメなのにね」
弱々しく呟く奈菜に、
僕がフトクリームを差し出すと
奈菜はそれを無気力に受け取った。
落ち込み、俯いている奈菜。
僕たちの様子を窺(うかが)う人の視線が突き刺さる。
でも、僕はそれを吹き飛ばすように、努めて明るく奈菜に言う。
「じゃあさ、これから二人の時は僕のこと名前で呼べば?」
驚くように顔を上げ、僕を見つめる奈菜に、僕はイタズラっぽく笑う。
それを見た奈菜は少し考えるようにしてから声を発した。
「小野さん?」
「それじゃあ、固いな」
「じゃあ、秀平さん」
「もう一声」
「小野秀平」
ん……?
僕たちは顔を見合わせ、一瞬固まる。
おいおい、フルネームって……
まったく奈菜は……
思わず肩で笑ってしまった僕。
その横で奈菜は“しまった”とゆう顔で真っ赤になり、申し訳なさそうに俯いた。
「普通に下の名前で呼べよ。
“さん”も“くん”も要らないからな」
「でも、秀平なんて呼べないよ」
そう言った奈菜だったが、
突然閃いたように
「じゃあ、“秀”はどう?」
目を輝かせながら僕を見つめる奈菜の目には期待が込められていた。
「合格」
僕が言うと奈菜の顔には
再び笑顔が広がって
「秀?」
奈菜は照れくさそうに小さく僕の名前を呼んだ。