薔薇部屋
「ユミが一番好きな花だったんだ」
父はそう言って娘にブローチと花瓶をプレゼントした…―ミキは薔薇は確かに綺麗だと感じた、なんだか幻想的だと

花を飾らない花瓶を見詰める、奇妙な日々が続いた

「お嬢様」
そんなある日のこと、遠野は大きな花束を抱えて、ミキの部屋へやって来た
「…―遠野さん」
ミキは深くため息をついて見せた
しかし、遠野の持っていた花束はいつもと違っていて、少し身を乗り出した

「お嬢様には、落ち着いた生活をと思い、毎回落ち着いた色の花を選んでいたのですが、随分と旦那様からのプレゼントがお気に入りのようでし……?お嬢様?」
「それが薔薇の花?」

ベッドから下りると、自分から花に近付いた…―そして、何の躊躇いもなく、大きすぎる花束の中から薔薇を一輪手にとる

「あ、お嬢様!」
「…っ、痛っ…」

その美しい薔薇という花には棘があった…―それがミキの指を傷つける

これは血?

ミキは怪我をしたのも、久々というか…―初めてなのかもしれない

傷つき、血の滲む指を見詰めていると、遠野が焦ったように清潔なタオルを巻き付けてきた

「だ、大丈夫ですか!?申し訳ありません、お嬢様、次は必ず棘をとるようにいたしますので」

とんでもなく申し訳なさそうな顔で、必死で止血をする遠野を見て、ミキは少し笑った
「全然平気よこれくらい」

痛みを味わうのも、ほとんど初めて…―まったく自分はなんて無知な人間なのだ

ミキは、自分の愚かさに自嘲的な笑みを浮かべ、少しずつ大人の階段を昇っていた
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