嫌いなあいつは婚約者


「まだわかんないんですか?」



ぐっ!と松田に腕を引かれよろけた私は、松田の腕の中に収まった。





「俺の婚約者は、こいつで、酒井瑠璃だけだから。」


「だから、意味分からないこと言わないで下さい。」とギュッと私を後ろから抱きしめる。





このやり取りの間静かだった生徒たちも、松田の一言でまた騒がしくなり、私たちを囃し立てる。





恥ずかしくなって俯くと、松田の手が私の手を掴み、そのまま引っ張って出口の方まで歩いて、言った。






「というわけで、こいつはあげませんから。」











ばたん、とドアの閉まる音がする。





残されたのは生徒たちと、ほぼ空気と化していた司会者、そして泣き崩れている真巳先輩と、悟ったような穏やかな顔をした水野さんだった。










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