虹が見えたら

なるみは心配して損をした気分になり、管理人室を後にしようとすると


「待って、なるみちゃん。
どうしても君に頼みたいことがあるんだ。」



真樹が真剣な顔で呼びつけたので、なるみは気をとりなおして真樹の側に行くと、以前なるみが真樹のマンションで手伝って作成したファイルと同じようなものを手渡された。


「ほんとは僕が行かなきゃならないんだけど、この格好で乗り込むと先方にご迷惑をかけてしまうんでね。
明日、休日返上になって申し訳ないけど、お客さんにこの書類を届けてくれないかな。

これから何度か行き来することになる相手なんだけどね、案と見積もりを早くほしいと言われてたものだからね。
伊織に行ってもらおうかと思ったら、別のお客さんの予約とかちあってしまって、伊織も動けないんだ。」



「届けるだけでいいなら・・・。難しいことわからないし。」


「説明はね、僕が電話でしておくから大丈夫。
届け先は学校だから、怖い先じゃないしね。
僕の代理として行ってきてくれる?」


「はいっ、お仕事引き受けさせていただきます。社長!」



「社長はやめてよ。お客さん今いないんだし。
なるみちゃんは無事でよかった。
その感じじゃ旅行は楽しかったみたいだね。」



「ええ。久しぶりにワアワア言いながら歩きまわれて楽しかったです。
真樹さんにもお土産買ってきましたよ。
あ、でも今は・・・また夜に様子を見に来ます。」



「うん、待ってる。」



なるみが管理人室を出るのを見て、伊織が真樹の顔をじっと見る。


「もう尻に敷かれてるみたいだな。
2人っきりになってもその足じゃ残念だろうけど。」



「伊織は誤解してるよ。
なるみちゃんはガード固いし、自分の意思をしっかりと持ってるからね。
僕が最高級なカゴを用意しても素直に入ってはくれない。

自由にいろんな世界を旅して、僕のところに立ち寄ってくれさえすればうれしいってとこだな。」



「そんなこと言ってると、どこかのハンターに生け捕られてしまうぞ。」
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