虹が見えたら
なるみはそんな話を桐谷からも真樹からもきいたことがなかったので驚いていた。
「真樹さんがここでお仕事を?」
「お見えになったのは1度ご挨拶に来られただけだったわ。
あとは、社員の方と作業員の方ばかりで。
スーツ姿にとても礼儀正しくて、あなたのことをよろしくって言ってね。
年甲斐もなく、見とれちゃったわよ。うふふふ」
「まぁ園長先生ったら。
でも、お話をうかがっただけでその様子が目に浮かびます。
ふだんは虹色寮の管理人で桐谷先生みたいにエプロン姿だったりするんですよ。」
「あら、そっちも拝見したいものだわ。あははは。」
真樹をサカナに楽しく園長先生と今後の予定について話をしていると、残っていた園児のひとりが高熱を出したと連絡が入った。
「困ったわ。今日は園のかかりつけの先生が学会とかで夕方から留守なのよ。」
なるみは咄嗟に、携帯で真樹に電話をかけた。
もしかしたら知り合いにお医者さんくらいいるかもしれない。
真樹はちょうど、会社の事務所にいたところで、内科医なら今事務所に来ていると答えた。
なるみが事情を説明すると、病院の名前や場所の書いてあるFAXが送られてきて、そこに医者を戻らせるから向かうようにとのことだった。
桐谷が発熱した子を抱いて、なるみもいっしょにタクシーで病院へ行くと、人のいない病院で顔パスで診察室へといれてくれた。
「おそらく、おたふく風邪だね。耳下腺に手がいこうとしてるし。
高熱はまだしばらく続くけど、水分補給をしっかりやってがんばって。
お薬も出しておくからね。」