虹が見えたら
((そう・・・恩返し。
郁未くんや沢井さんと話しているとわかる。
私のついていけない世界だなぁ・・・って。
婚約披露はびっくりしたけど、策略とかじゃなかったら祝福すべきなんだろうな。))
そんなことをなるみが考えていると真樹が食堂に入ってきた。
「ただいま。
食事時でもないのに、いい匂いがすると思ったら・・・おいしそうだね。
なるみちゃんが作ったの?」
なるみの返事を押しのけるように伊織が答える。
「医者の鳴海からの注文でね。
社長業に疲れてるヤツのために栄養のあるものを作ってやってやれって、うちのなるみがきいてきてがんばってるわけだ。
でも、うちのなるみもそろそろ大事な時期だから、こういう労力で時間をつぶさせたくない。
なんとかここ開けてる時間にいったん仕事抜けてくるとかできないのか?」
「あ・・・ごめんね。
最近、他人に頼まないといけないことが多くて、考えを巡らしているとつい食事も忘れがちになってしまって。
昨日、とうとうめまいを起こして鳴海にきてもらったんだ。
なるみちゃんも実習とかあって大変なんでしょう?
これからは何とかここで食事するようにするから、無理はしないで。」
真樹の少しつらそうな表情を見てなるみは声を荒げて言った。
「お兄ちゃんも真樹さんも私の家族です!
学費稼いでくれてるのに、お弁当も届けないで私だけ自分の勉強してるなんて嫌。
私、ほんとに無理なんかじゃないから。
私が一番ヒマなんだから。
郁未くんみたいに私がお仕事をこなせたらいいんでしょうけど、私は頭悪いからついていけないし・・・お弁当作って届けるくらいしかできないから・・・。
病人になりかけてる人が無理して走って来ないでください。
もう謝ったりする時間で食べられるでしょう?
どうぞ。食べたら早くお風呂入って寝なきゃ・・・ね。」
「だってさ・・・。」
「うん、ありがと。明日から楽しみができる。
おいしいよ。とっても。」