虹が見えたら
真樹はなるみの左手をとると、握ってこう言った。

「大好きな家族、大切な人を助けるのは当然でしょ?
僕の足をひっぱったから手伝ってくれたんじゃなくて、僕が職場で困ると思ったから手伝ってくれたんじゃないの?」


「う、うん・・・。」


「だから気にしなくていいんだよ。
お互い大好きな親父を亡くした者どうしの家族じゃない。」


「でも真樹さんにはお兄さんがいるんでしょう。
お兄さんとは連絡取り合ったりしないんですか?」



「しないよ。
あの人とはほとんど会ったことがないんだ。
僕は須賀浦龍起という人に認知してもらっただけで、母親と家を出てひっそりと暮らしてた。
養育費だけは滞ったことがなくてね、金持ちのメンツというか母も学校には僕の希望どおり行かせてくれた。

その時は母を助けたい一心で優等生としてがんばってたんだ。
けどね、大学に入ってすぐ、その反動がきて母も亡くなったからもう、荒れ放題だった。

雨の中でもう死ぬかと思いながらぶっ倒れてたら伊織に助けられてさ。
あいつも母親と2人だったから仲良くなった。
あいつはほんとは須賀浦の家の執事見習いだったんだけどね、僕が気になって出てきてくれたんだとさ。」



真樹がそこまで話すと、なるみが目をうるうるさせて震えている。


「あっ、なるみちゃん、どうした?」


「なんでそんな苦労してたのに、私になんかこんなによくしてくれるんですか。
こんなすごいマンションも持って、とってもがんばっててすごすぎます。
若くてきれいで、優しくて女の人みんなほっておかないと思うのに、私なんか抱え込んじゃったら・・・お婿になれないですよ。」



「そこまで心配してくれてるんだ。
そういってくれるなるみちゃんだから家族になってもらったんだけどなぁ。
さ、そろそろ寮へもどるよ。」




虹色寮へもどるまでの道のり、なるみは家族という言葉に引っかかっていた。
自分はそんなに両親や姉のことを心配したことってあったのだろうか?

姉の恋愛が破局していたことにも気付かず、いいところしか見て来なかったような気がしてそれって家族らしいといえるのかどうか・・・。



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