虹が見えたら

あらためてなつきに指摘されてしまうと、なるみは体が熱くなってしまう。
やっぱり、あのときの口づけは嘘や冗談じゃない。
そう、思わないようにしてきたのに、朝の一言といい、帰宅したらまた意識してしまいそうで考え込んだ。


放課後なるみが帰宅するのに校舎を出ると、祐司が声をかけてきた。


「あれからさ俺、両親に兄さんのこと全部話したんだ。
母さんが君と真樹さんにお詫びしにいくって言ってた。
兄さんはまだ出て行ったきりもどってこなくてさ。

あのさ・・・俺は兄さんとは違うから。
これだけは信じてほしいんだけど、山田んちの財産とか家族とかそういうのみて近付いたんじゃないんだ。

俺はむしろ、貧乏だからがんばってる山田を尊敬してるし、応援したくて。」



「わかってるよ。
高倉くんは真面目で一途なのは私も含めてファンの子みんな知ってるもの。
お兄さんとのことは早く忘れるようにするね。
これから部活でしょ。
じゃ、また明日ね。」



なるみは祐司の母が寮にきているときいて急いで寮へ向かった。

管理人室のドアがあいていて中から女性の声がする。

なるみがそっと中をのぞくと、机の上に菓子折りを置いて真樹に謝っている中年の女性がいた。
祐司の母だ。
朝の掃除のときに見かけたことのある女性だと気付いた。


なるみに気付いた真樹がなるみに部屋に入るように促した。


「なるみさん、剛史がひどいことをしたそうでごめんなさい。
申し訳ございませんでした。
祐司から事情はききました。
お姉さんのことも、私たち何も知らなくて。

見た目優しくていい子なものだから、ずっと騙され続けてたんです。
どこであんなふうになってしまったのやら。」



「待ってください。頭をあげてください。
私も姉のことはわかっていると思ってて、じつのところはわかってなくて剛史さんに遺品を渡せば懐かしがってくれるなんて勝手におじゃましてしまって。

だからもうそんなに謝らないでください。」



それから祐司の母はなるみが来てくれるなら自分も家にいるようにするからといって管理人室を出ていった。



< 60 / 170 >

この作品をシェア

pagetop