虹が見えたら
すると伊織はなるみを抱きしめてくる。
「なるみ・・・苦労かけてすまない。」
ただ、そういうと伊織は外へ駆けだして行ってしまった。
なるみは慌てて部屋へもどると胸を押さえて座り込んでいた。
((伊織さんが・・・どうして。
それと前にも感じたけど、抱きしめられるとなんだか懐かしい気がする。))
しばらくして、クラスでさやかが町でカッコイイ男性とデートをしているのが目撃されたと噂になった。
なるみは、伊織がさやかの我がままをきいてあげたんだと苦笑いする程度だったのだが、目撃されることが頻繁になり、それが虹色寮のシェフだということまで話がいきわたって、さやかは担任と教頭から呼び出されることになった。
なるみは心穏やかではなかったが、しばらくしてさやかが涼しい顔をして出て来たのでさやかに話しかけようとすると、さやかはなるみを指さしてこう言った。
「伊織さんはあなたのために、私とデートしてたんですって。
助けてくれてカッコよかったからデートまでこぎつけたけど、あの人って不器用なのかわざとなのかわからないけど、いたわるってことを知らない人ね。
それで最後に何て言ったと思う?
『なるみはいじめないでくれ』ですって。
大人のイケメン2人を誘惑して、寮生活が楽しいでしょうね?」
「そんな・・・私はべつに何も。」
「わかってるわよ。私が勝手に好きになってどんどん伊織さんを連れまわしただけ。
心が少しでも動いてくれないかなって思って、ずっと誘ってきたけど、もう疲れたのよ。
寮にもどったら言っておいて。
もう好きにしたらいいわって。
じゃあね。いっておくけど、私はイジメなんてせこい手を使う女じゃないからね。」
きっと、さやか流の別れ方なんだろう。
なるみはさやかがかわいそうな気がして、帰りに伊織のところへ寄った。
伊織は「そうか」とただ一言しか言わなかった。
しかし、なるみが出て行こうとすると、伊織はなるみの手をひっぱって寮の駐車場へと向かった。