虹が見えたら
なるみはびっくりしたまま、声もたてられずに伊織の車に乗せられ、伊織は車を走らせた。
どこに行くのか聞きたいのに、声を出すのもいけないという空気がなるみを固まらせていた。
しばらくして、伊織はなるみが驚くべきことをいう。
「真樹のことを愛しているのか?」
「えっ!!
ど、どうしていきなり真樹さんの話が出てくるんですか?」
「意識してるみたいだから。
寮に来た時はよそよそしい感じはあったけど、なるみは笑ってた。
でも、最近はとてもつらそうにしている。」
「そ、そんなことないですよ。
高倉くんのお兄さんのこととか、さやかのこととか何かと振り回されてしまったから、ちょっと疲れちゃっただけです。
あ、さやかのこと。すみませんでした。
伊織さんに全部押し付けてしまって・・・」
「なるみが気にすることなんか、ぜんぜんない。
さぁ・・・着いた。」
「あれ・・・ここは・・・。」
伊織がなるみを連れてやってきたところはなるみの父と姉が眠る墓だった。
「俺の父の墓だ。」
「え、ええっ!!?」
伊織はなるみの前で深々と頭を下げた。
「親父と俺だけの約束だったから、今さら申し訳ないとしか言えないが。
なるみたち姉妹が生まれる前のことだが・・・俺の母と親父が夫婦でいた時期があった。
だが当時の親父はそこそこ羽振りもよくて、女にも困らない身分でな。
浮気で母は困らされ続けた。
そして、堪忍袋の緒がきれてな・・・俺を連れて母は家を出たんだ。」
「初めて聞く話です・・・。」