6月の蛍―宗久シリーズ1―
「お前、いつになれば私達を安心させてくれるのか」






夫の実家は格式のある、地元でも有名な資産家だった。




結婚して二年。



未だに子宝に恵まれない私達夫婦。



毎夜の様に、姑は夫に小言を繰り返す。






夫は、私にそれを隠していた。



隠しているつもりだったのだろう。




だが、私は気付いていた。




姑の小言も、それに嫌気を覚えている夫の事も。








「子供ができなんだら、家を去ってもらうしかない」

「何度も言っているでしょう。僕は咲子以外の女性を妻にするつもりはありません」

「なら、この家はどうなる」

「僕達に子供ができないならば、弟がおりますでしょう」

「わからない事を言うな、長男がそうでどうする」

「わからないのはどちらですか。子供を産む事だけが妻ではありませんでしょう」







私はいつも夫に内緒で、襖一枚隔てた隣で、その話を聞いていた。




だから、夫がどれほど私を想ってくれているのかも知っていた。








「お義母様からのお話は何でしたの?」




部屋に戻って来る夫に、私は毎度、そう問い掛けた。

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