6月の蛍―宗久シリーズ1―
咲子さんの儚さが、更に際立つ。



月の光に、溶けていってしまいそうだ。









僕は、縁側に視線を移す。


雨は上がった様だ。





庭先を彩る紫陽花の花が、風に揺れ遊んでいる。





まるで、呼んでいるかの様に。








「雨、上がりましたわね」





呟く咲子さんの瞳も、紫陽花に向けられていた。





遠い……記憶を噛み締めるかの様な瞳。











彼女は今、何を思うだろう。






記憶を戻された今、その小さな胸の中、何を思っているのだろう。










きっと………それに僕は気付いている。




理解している。









そして………導いてやれる筈だ。












「庭に、出てみませんか?」






問い掛けに咲子さんは、小さくうなづき、笑った。







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