月物語 ~黒き者たちの宴~



「達者でな。」



優しく囁かれたことに、胸がチクリとした。



その違和感を気のせいにしたくて、武則天の瞳を見ないように顔を上げた。



礼は、描かれた陣の中央に立った。



儀式が始まる。



どこにいたのか巫女たちが陣を囲み、陽思が何かを唱え始めた。



柔らかだった光は強さを増し、陣の形をはっきりと浮かび上がらせた。



身体が浮くような感覚が訪れる。



ジェットコースターが一気に落ちる、あの感覚だ。



キィーンと耳鳴りもした。



光で目も痛い。



そして突如、重力も、音も何もない世界に投げ出された。



「そなたに付けられたら名、ゆめゆめ忘れるでないぞ。」



最後に、武則天の声が聞こえた。



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