雨のち晴







「十夜からのおめでとうは、2回目だね」





去年は文章で。


今年は口で。





『来年も言う』





そんな一言に。


未来を思い描いてしまう。


思い描けてしまう自分が、


ものすごく怖い。





「本当?」





『約束してやる。絶対、言ってやるから』




鼻の、奥が、ツーンって。


十夜は、ずるいよ。


里菜ちゃんが待ってるのに。


あたしなんかに、


構うなって。


でも、電話が切れるのが怖くて、


関係のない話ばっかりしちゃって。







『そろそろ寝るか?』





「あ、…そうだね」





切りたくないって。


言えないから、あたし。


ここで我慢しなきゃいけないから。






『じゃあ、またな朱里』





朱里って呼ぶ、その声が好きで。





「うん、ありがとうね」





『別に大したことじゃねーよ』





顔を見なくても分かる。


こうやって笑ってるんだろうなって。





「おやすみ、十夜」





『ん、おやすみ』





ツーツーツー、と。


機械音に変わって、


虚しくて。


切った画面には、


不在着信が4件。


0時と、0時2分。


0時5分と、0時8分。


全部、諒司先輩からの電話。


しまった、すっかり忘れてた。


メールボックスを開けば、


恵衣と麗華と、それから諒司先輩の


メールが届いてて。





"誕生日おめでとう!明日、遅れるなよ!"





本当は、気にしてると思う。


だって、0時にかけるって


前もって言ってくれてたのに。


分かったって、伝えちゃったあたしに、


電話が通じないんだから。


あたしだったら、


変なことを考えちゃってると思う。


あー、悪いことしちゃった。


そんなことを考えながら、


でもあたしの胸の中は


嬉しさでいっぱいで。


もう何も、考えられなかった。






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