雨のち晴
「朱里ちゃん、早く!」
「分かってるよ!うるさい、夕里」
起きれなかった。
いや、違う。
目覚ましが鳴らなかったんだ。
せっかく、諒司先輩と
約束してたのに。
あたしったら、最悪。
昨日、あれからなかなか
寝付けなくて。
ようやく寝られたのは、
真夜中の3時。
何で寝られなかったかなんて、
言うまでもない。
「外で男の人待ってるよ?誰?」
「え、もう?うっそ~っ…」
「あたしが言ってきてあげるねぇ!」
夕里は嬉しそうにそう言うと、
ダッシュして玄関のドアを開けた。
ちょっと待って。
言いたくても、言えなくて。
言う暇があるなら、
早く準備しなきゃいけないわけで。
「諒司が、いくらでも待つよだって!」
「よかった。…って、呼び捨てにするんじゃないの!」
「でもママがいなくてよかったね。いたら絶対諒司みたいなイケメン、離さないよぉ」
「もう分かったから」
ナチュラルに、メイクを済ませ、
鞄の中身を確認して玄関に駆ける。
「じゃあ、お母さんに出かけるから夜はいらないって伝えといてね?」
「分かった!行ってらっしゃい!」
夕里に背を向け、
外に出る。
「よっ」
「わ、諒司先輩!びっくりしたぁ」
思ったより玄関の近くにいて、
驚いてしまうあたし。
「諒司~!ばいばーい!」
「お、またな!」
あたしは急いで玄関を閉める。
もう、本当。
夕里は誰にでも話しかけるんだから。
人懐っこいったらありゃしない。
「夕里ちゃん、可愛いね」
「うるさいだけです、夕里は」
まあ、実際。
夕里のことは大好きだけど。