雨のち晴






「あ、ていうか、遅くなってごめんなさい」





「全然。俺もついさっき来たばっか」





諒司先輩が、ずっと


待っててくれたこと


知ってるから。


この嘘が、


優しい嘘だって、


分かってるから。


心が、苦しい。





「お、来た」






バス停で、2人並んで待つ。


予定時刻より、3分遅れて


来たバスに、あたしから乗る。




「窓側どうぞ」





あたしを奥に座らせ、


隣に腰をかける諒司先輩。






「ん」





言葉を発さず、


あたしに手のひらを見せる。






「何?」





「手、貸して」





ゆっくり動き出すバスの中。


言われた通りに、手を差し出して。


静かに大きな手に包まれた。


温かくて、温かくて。


だけど、何だか。


罪悪感。





「ね、どこ行くの?」





ずっと前から、


こうして尋ねてるのに。





「秘密」





そう言って、教えてくれない。


バスの方面からするとって、


考えても考えても思いつかない。


行き場所なんて、


いくらでもあるわけで。






「次、降りる」




それだけ言うと、


ボタンを押して立ち上がる。


あたしは手を引かれ、


後ろに続く。


あたしの分も料金を払った先輩は、


バスを降りると咳払いをした。






「俺、何がいいかいっぱい考えたんだけど」




そう言って、また歩き出す。


あたしは首を傾げながら、


横を歩く。


諒司先輩は、何だか楽しそうで。


あたしまで少し頬が緩む。






< 178 / 281 >

この作品をシェア

pagetop