失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿



音楽室を一歩でた瞬間から、亜美の顔が一変した。


笑顔から真顔へ。


遊びモードから仕事モードへ。


亜美から深瀬亜美へ。




「……佐伯さん、申し訳ないけど迎えに来て」


普段は高級車に乗るのが嫌で、自分からあまり“迎えに来て”なんて言わない。


でも今日ははやく帰りたい。


「お願い……、早く、帰りたい」


「っ?!分かりました」


なんでか泣きそうだった。


ストレスとか溜まってたのかな?いつの間にか。あたしの気付かないうちに。


大声で泣き叫びたいよ。




佐伯さんに迎えに来てもらって、家に帰った瞬間、部屋に向かって全力で走った。


今から、あたしは覚悟を新たにする。


――犠牲なんかじゃない。あたしが望んだことだ。


今までそう言い聞かせてきた。


そうやってあたしの心を――…。



トントン



部屋をノックする音が聞こえてきた。


「開けなくていいですから聞いてください」


聞こえてきたのは佐伯さんの声。


あたしは枕に顔をうずめたまま、耳だけすました。





< 210 / 509 >

この作品をシェア

pagetop