失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
音楽室を一歩でた瞬間から、亜美の顔が一変した。
笑顔から真顔へ。
遊びモードから仕事モードへ。
亜美から深瀬亜美へ。
「……佐伯さん、申し訳ないけど迎えに来て」
普段は高級車に乗るのが嫌で、自分からあまり“迎えに来て”なんて言わない。
でも今日ははやく帰りたい。
「お願い……、早く、帰りたい」
「っ?!分かりました」
なんでか泣きそうだった。
ストレスとか溜まってたのかな?いつの間にか。あたしの気付かないうちに。
大声で泣き叫びたいよ。
佐伯さんに迎えに来てもらって、家に帰った瞬間、部屋に向かって全力で走った。
今から、あたしは覚悟を新たにする。
――犠牲なんかじゃない。あたしが望んだことだ。
今までそう言い聞かせてきた。
そうやってあたしの心を――…。
トントン
部屋をノックする音が聞こえてきた。
「開けなくていいですから聞いてください」
聞こえてきたのは佐伯さんの声。
あたしは枕に顔をうずめたまま、耳だけすました。