失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
それに、今のあたしには――
「ぼけている時間はないのよ。これが」
そう言えば佐伯さんは眉間にしわを寄せた。
でもそれは一瞬のことで。
「……行くなよ。あんなやつのとこなんか」
あたしはただ眉間にしわを寄せる佐伯さんを珍しいなって思っていたから、その言葉を理解するのに、時間が掛かった。
「……は?」
「聞こえなかったのなら、何度でも言いますよ。行かないでください…………私は……」
ちょっと待とうよ。
展開なついていけない。
「え?は?ん?」
もはやパニック。
「……なーんて、言ってくださる御方はいないんですか?」
思わず持っていたタオルを床に投げ付けた。
「あんたは……でも、なんかリラックスできたわ。ありがとう」
怒りが沈んで笑顔が亜美の顔に浮かぶ。
「いやー、焦った。どうしようかと思ったわ」
亜美は何度も頷いて、納得した。
「……うん、なんか元気になった。ってことで着替えるから出ていってね」
「……分かりました」
静かに出ていって佐伯さんの背中が少し淋しく見えた。