失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
「ねぇ、この部屋で一番大きい鏡どこ?」
なんとなく手鏡じゃ気合いが入らない。
「あ?お前ね、いくら自分の顔がでかくて手鏡に納まらないからって、一番でかくなくてもいいだろ」
「ちげぇよ」
大雅はこんなときでかましてくれる。
「いいから!」
「亜美、たぶんこれが一番デカい」
颯太の声の方向を見ると、誰のかわからない大量の荷物に囲まれた全身鏡。
「おぉ、ありがとう」
亜美は軽く荷物をよかし、鏡の前に立った。
「――――できる、私は深瀬亜美。できるできるできるできるできる」
あたしが深瀬亜美になれる魔法の呪文。
いや、あたしが深瀬亜美だと言い聞かせる呪い。
「……」
これをみんなにみせることになるなんて思ってもいなかった。
ただ、何も言わないでいてくれたことにはとても感謝している。
「……行ってくるね」
あたしが初めて見せるお嬢様な姿。
でもちょっと意地を張っていつものあたしらしく、挨拶をした。
「無理はすんな。辛くなったら帰ってこい」
陽はあたしに居場所を作っていてくれるから安心して行ける。