失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
思い返してみれば、あたしは守られ、母親のことを知らず、のうのうと笑っていたのだ。
「確かに、あたしはみんなに守られてきた。あたしが苦労だと思ってたことも、みんなに比べればなんてことないものだったのかもしれない」
あたしは下を向いた顔を上げることができなかった。
「でも、今はちゃんと知ったから。知れたから、だからこんなバカみたいな行動もできる」
何も考えないで、友達の家に単身突破するなんてこと。
「今日、大翔に家に来たのは、いつものあたしじゃない。深瀬亜美としてきたの」
日本を代表する大財閥の跡取りとして。
「だから、あたしが話したいのは大翔じゃない。あのお兄さんだ」
譲れないものがあたしにはある。
「もう、大翔は傷つかなくていい」
「……亜美」
呟くような声でアタシを呼ぶから、
「何?」
「今日、化粧濃い」
「黙れぇ!」
弱々しい大翔を少し心配したあたしがバカだった。
あたしの心配を返してください。
「まぁ、亜美に任せたから」
こちらを見ようともせず、大翔は部屋を出ていった。ヒラヒラと手を振って。