The Flute of Ico‐イコの笛‐



エルシスは必至に駆けていた。

書庫に行くには、更に奥へと進まなければならない。



「はぁ……はぁっ」



あともう少しまで書庫へと着く。その確信を胸に、エルシスは無我夢中で走る。

ふと最後の角を曲がる手前で、聞き覚えのある声がどこからもなく聴こえた。
エルシスは一度立ち止まり、ぐるりと一回りした。



「あ……」


一つ、大きな扉がある。

ここにはエルシスは一度も入ったことはなかった。なぜならそれは、彼女が禁止されていたことの一つで、入ってはいけな言われていたからだ。

そんな部屋の扉が、今や少し開いている。

立ち止まってはいけない。分かっていたが、エルシスは自身の好奇心に勝てなかった。


扉を覗けば、見知った影を見つけた。



(お父さま……お母さま……)


ではさっきの声とは母のものだろうとエルシスは結論付けた。


恐る恐る中を見回せば、そこには2人以外の別の影もあった。
エルシスには見覚えのないものだ。



「あれはここにはない」



父の強い口調だった。



「戯言を。今更隠してももうお前の一族は終わりだ」

「なんて、ことを!」



見知らない声の後に、震えた母の声がした。



「もう……よい」



それは突然に起きた。

争うような会話のあと、見知らぬ男は突如腰に携えていた剣を抜きとった。

まさに不意打ちを取るように剣を向けられたエルシスの父は、一歩遅れて剣を抜く。

しかしそれはもう遅かったのだ。


エルシスの耳には聞いたことのない音が届いた。

何か柔らかいモノを貫いたような、そんな音が。



ザシュッ




「うぁ……っ」

「キース!」

「お前も用済みだ、エマ」

「ああぁっ!」



振り下ろされた銀が、自分の母を深く刺したのをエルシスは両の眼を開いてみていた。
ゆっくりと自分の中の何かが、静かに消えてゆくのを感じていた。

恐ろしく、悲しく、冷たい。

そんなものが身体を巡りだす。


両親が、殺されたのだ。



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