午睡は香を纏いて
目の前にいるであろう、腕を掴んだままの男に尋ねたのに、
返事の代わりに腕を強く引かれた。
いきなりのことにそのままよろめいたあたしは、そのまま男に抱きすくめられた。

包まれるような感覚に、頭が真っ白になる。


何がどうなってるわけ?
反射的に、押し付けられた体から離れようと身をよじろうとした、瞬間。


そこにあるはずの、立っていたはずの地面が、消えた。
まさかと思う間もなく急落下。
叩きつけられる感覚もなく、次に回転。
引っ張られて、落ちて、再び回転。


それらは息もつけないスピードで、目を開けることも適わない。


あたしの体は大きな力によって、いいように弄ばれているようだった。
苦しい、痛い。苦しい。空気欲しい。

あたし、さっきまで通学路にいたよね?
周りにはあたしに嫌がらせばかりするクラスメイトがいて。なんの変哲もない、いつもの憂鬱な一日の終わりだったはずなのに。

落下ばかりだと思っていたら、急上昇を始めた。ぐん、と体に重力がかかって、体が軋む。
もうダメだ。
息が出来ない。
苦しい。
もう、ダメ……。


………………。


『お帰り。我らの巫女姫』




意識を手放した瞬間、耳元で囁きを聞いた気がした。


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