午睡は香を纏いて
じんわりと滲んだ涙をぐい、と手の甲で拭った。困らせてる上に泣くなんて、迷惑極まりない。

カインが額に手をあてて考え込むのが分かった。

きっと、面倒くさいことになったと思っているんだろう。
まだ仮の話だというのに、心を乱されているあたしに呆れているかもしれない。

泣くのは、せめて一人になってからにしよう。
目元をごしごし拭い、カインにもう一度謝ろうとした、その時。


乱暴に抱き寄せられた。


「……不確かな話をして、無駄に不安がらせた。悪かった」


黒い上着の胸元に顔を押し付けられ、状況が分からないでいると、声が降ってきた。


「カ、カイン……?」

「あんまり気丈に過ごしているから、この話も受け入れられると思い込んでいた。俺の勘違いだった」


ふわりとカインの香りがした。
古い書物と、薬草の香りだ。
それはどこか懐かしい匂い。

ぴたりと添った耳から、触れた頬から、カインの鼓動を感じる。
とくとくと正確に刻まれる、命の音。

どうしたんだろう。
あたしはこの状況に驚きすぎて、心がどうにかなったのかもしれない。

荒れ狂っていた不安が、不思議と勢いを潜めていく。


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