午睡は香を纏いて
「……………ん……」


鼻がむず痒くて目が覚めた。
何かがあたしの鼻先をくすぐっている。くしゃみを引き起こしそうな不快感に、無意識に鼻に手をやると、一本の藁が掴めた。

藁?

それを掴んだままぼんやりと見渡すと、見慣れないむき出しの木の天井、壁があった。
ここは、アパートのあたしの部屋じゃない。
それじゃ、どこ?


ぼんやりした頭で記憶を辿って、は、と気付く。


放課後、あたしは見知らぬ金髪頭の男に靴をぶつけて。
『帰るよ』なんて言われて、そしたら光の海が広がって。
地面がなくなって、振り回された、んだっけ?


「あれ? それも夢だっけ?」

余りにも有り得ない記憶に、首を傾げた。
夢にしては苦しかった感覚とか、しっかり覚えてるんだけど。


「よいしょ……、と。あ、れ……?」


とりあえず体を起こしてみて、驚いた。

あたしの知識が正しければ、ここは家畜小屋とかそういう名称で呼ばれるべきところではないだろうか。
豚や牛こそいないけれど、仕切り柵があり、隅には空の餌箱がある。
柵内には一面に藁が敷き詰められており、よく見たらあたしが寝ていたのは藁の山にシーツを被せただけの場所。


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