午睡は香を纏いて
「えーと。ハ、ハイジ……?」


いや、彼女はちゃんとした部屋で寝てた。
こんな小屋めいたところじゃなかったはずだ。


「どういう、こと?」

 
あたし、どうしてこんな場所で寝てたの?
立ち上がり、小屋の中を見渡した。
丸太を組んで作ったらしいこの小屋には、あたし一人しかいないようだ。
窓は二つ。と言ってもあたしの身長じゃどうにも届かない位置に、だけど。
多分灯り取り用なのだろう。

そのお陰で日が差し込んできて、小屋の中はそれなりに明るい。
今が何時なのかまでは分からないけど、昼間だということは確か。
広さは、六畳のあたしの部屋よりもう少し広いくらいだろうか。
家畜小屋としては少々狭い気がする。

あたしは柵の内側(豚とか牛がいる側。もしや家畜扱いされているのだろうか)にいて、その向こうには出入り口らしき木戸がある。
とりあえず、出て行ってみようか。
ここにいても、状況が全く掴めない。
外には事情を知っている人がいるかもしれないし。
足を一歩踏み出したところで、木戸が開いた。


「あ、起きた?」


入ってきたのは、金髪のあの男だった。
記憶と同じ、深緑の上下。腰の布切れも、同じ。
背に背負ったものも変わらずあるようだ。
男はあたしの顔を見て、にこりと笑った。

この人が実在しているということは、じゃあやっぱりあれは夢じゃなくて、現実!?
信じられなかった記憶が甦って、呆然とした。


「起きないから心配してたんだ。転送されるのって体に負担かかるんだよなー。
あ、どこか具合が悪いところはないか? 食欲は?」


そう言いながら男が近寄ってくる。


「あああああのっ、あなた誰ですか? ここはどこ?」


思わず後ずさった。
すぐに壁にぶつかり、シーツの敷かれた藁の上にへたりこむ。


「レジェスだよ。自己紹介もしたんだけどな。やっぱり、覚えてねーんだな、サラ」


歩み寄ってきていたレジェスと名乗った男は、あたしの様子を見て足を止めた。
それから悲しそうに小さく笑った。



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