午睡は香を纏いて
それなのに、あたしは口火を切ってしまった。


「別に、がっかりなんてしていない。サラという人間は、もういない。代わりにカサネがいる、それだけだ」


あたしの問いかけに、カインはぽつんと言葉を落とした。

そこにいつもの自信家はいなくて、あたしが言ったことを認めているかのように聞こえた。


「だからっ、その『サラ』の代わりがこんなのだから、がっかりだよねって言ってるの! あたしはサラの記憶も面影も、何にも持ってないもん! 

命珠を抱えてるってだけで、あたしには何の価値もない!」


目尻に涙が滲んだ。
感情のコントロールができない。
こんなこと、これ以上言いたくないのに。


ああ、あたしはただの駄々っ子だ。
思い通りにいかなくて、わめき散らす子供。


サラのようになりたい。
そうすれば、みんなの好意を堂々と受け取れるようになる、そう思った。
だから、自分なりに頑張ってきたつもりだった。
この世界を知れば、何かが変わるかもしれないと期待もしていた。

なのに、あたしはどこまでいっても『カサネ』で、『サラ』にはなれない。
近づくことさえ出来なくてただ、己の無力さを実感していくだけだった。

どうしてなれないの?
どうしてサラのように役に立てないの?


このままじゃ、またいらない子になってしまう!


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