午睡は香を纏いて
「そんなこと、思っていない」


カインの言葉が耳を通り過ぎる。


「嘘。嘘だよ、そんなの」


首を振って、俯いた。
ぱたぱた、と頬を伝った涙が顎先から落ちていった。
 

――サラじゃなく、カサネに愛情をください。
サラにはなれないけど、でもカサネを受け入れてください。
あたしから命珠が消えた後も――
 

そう願っている自分がいた。
束の間といえど、この世界で心地よい温もりを与えられた。
もう手に入らないかもしれないと思っていた、人の温かさ。

失いたくない。無くしたくないよ。

でも命珠があたしから無くなれば、この世界は『カサネ』を必要としないだろう。

命珠さえなくなったら、あたしは元の世界に帰ることになる。
元々その為に呼ばれたのだし、何よりあたしは彼らが待ち望んでいた『サラ』ではないのだ。

馬鹿ね、あんたに命珠以外の価値がどこにあるというの、カサネ。
ちょっと優しくされたからって、甘えちゃダメでしょう。


「も……やだ……」


どの世界においても、あたしは不要なんだろうか。どこにいけば、カサネを求めてもらえるんだろうか。


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