午睡は香を纏いて
「あ、あの、ありがとう」


カインに言うと、うん、と小さく頷きを返された。


「じゃあ、行こう」


すい、と顔を逸らして、カインはセルファを促した。
それからセルファと並ぶようにして歩き出す。
その後ろをついていきながら、小さくため息をついた。


あれから、カインにきちんと謝れないままでいる。
ごめんなさい、そう言わなくちゃいけないのに、カインに向き合うとどうにも口が動かないのだ。

ああ、嫌だなあ。カインはあたしの体調まで気遣ってくれてるのに。
優しくしてくれてるのに。

あたしはカインの些細な軽口で駄々をこねちゃって、しかも謝ることもできない。
最低。馬鹿だ、あたし。

次、カインときちんと話せそうなチャンスがあったら、絶対に謝ろう。
この間はあんなこと言ってごめんなさい、って。


「……ってふびゃ!」


どすん、と先を歩いていたセルファの背中にぶつかった。
考え事をして歩いていたせいで、立ち止まったことに気付かなかったらしい。


「いたた。どうしたんですか、先生」

「ユーマ、ここからは余所見せず、しっかりついてこいよ」


セルファの声に、ぴんと張り詰めるものを感じた。


「え?」

「ここからが、オレの知ってる『中央市場』なんだ」


セルファとカインが見つめる先は、細い路地だった。
賑わっている市場の隅から伸びている、見落としてしまいそうな場所。
あたしたち以外、誰も気にもしていない、そんな入り口。
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