午睡は香を纏いて
「ブランカ中央市場、奥通りだよ」


苦々しく、セルファが言った。


「あっちは港通り。他国の人間や貴族サマ、神殿関係者などなど、裕福な人間が行きかうところ。
で、ここはこの国の一般庶民の台所と呼ばれるところさ。
この国の本当の姿は、こっち」

「本当の姿って、そんな……」


子供の泣き声がして視線をやると、小さな男の子が赤ちゃんを負ぶっていた。
裾の破れたズボンからは、か細い足が伸びていて、あやす声も頼りない。赤ちゃんの声も、さっき聞いたものと違って小さくて、掻き消えそうだった。


「なんでこんなことになってるの? どうしてさっきの場所とこんなにも違うの?」

「ここが、命珠の餌場だから、だよ」

カインがぽつんと呟いた。
命珠の、何て? 

口を開きかけたとき、悲鳴が上がった。

さっきまで無気力だった人たちが途端に色めき立つ。


「計ったようにきたか。できるなら避けたかったんだけどな」


ち、とカインが舌打ちをした。


「マダムのとこ、急いだほうが賢明だね。こっち、ユーマ」


セルファが手を取って、引く。急に走り出した二人に引きずられるようにして走った。


「な、なに?」

「いいから! そこ右に入って」


訳がわからないまま、連れて行かれる。
汚れて何て書いてあるのかも分からない看板が掲げられた建物に飛び込んだ瞬間、
遠くで人のものとは思えない、思わず耳を塞いでしまいそうなほどの悲鳴を聞いた。


「…………はっ、はぁっ! な、何、今の」


いきなりの全力疾走に呼吸が荒くなる。
へたり込んで息をつきながら、カインとセルファを見上げた。
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