午睡は香を纏いて
「カサネは丸一日食事してないんだ。ライラがさっき俺に出してくれたスープ、持ってきてくれないか?」

「も、申し訳ございませんっ。そうですよね、私ったら自分勝手なことを……。
直ぐにご用意いたします!」


がば、と面をあげたライラさんの目は、涙が残っていた。それを服の袖で乱暴に拭う。


「気にするな。お前の気持ちはよく分かる」


優しくレジィは言って、それからあたしに笑いかけた。


「カサネ。腹、減ってるだろ。ライラは料理が上手いんだ」

「え? あ、ああ」


お腹に手をやると、タイミング悪く、ぐうう、と大きな音が鳴った。
こんな状況なのに、暢気すぎる自分の体が恥ずかしくなる。


「あちゃ。やっぱり話より先に食事にすればよかったかなー」

「え、いや、話を聞きたがったのはあたしですから」


赤面するあたしに、ライラさんがすまなさそうに頭を下げた。


「すぐにお持ちいたします。カサネ様にお召し上がり頂くには粗末なものなのですが、お許し下さいませ。
あの、レジェス様。本当にこちらにお持ちしても?」
 

最後の台詞はレジィに向けられていて、レジィはそれに頷いてみせた。


「俺たちがここにいることを、誰にも知られたくない。人目を避けるためには仕方ないさ」

「そうですか。かしこまりました。カサネ様、少々お待ち下さいませ」


少し赤みの残る瞳でにこりと笑い、ライラさんは小屋を出て行った。




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