午睡は香を纏いて
――血に染まったセルファがいる。
横たわり、その顔色に命の気配は薄い。

ああ、あたしは助けられなかったの?
やだよ、セルファ。死んじゃいやだ。

必死に駆け寄ろうとするのに、セルファはだんだん遠ざかって行く。
あたしの足もどんどん重たくなって、ぬかるみに嵌りこんでしまったかのように、動かなくなる。

いやだ、セルファがいなくなっちゃう。いやだ!


「……セルファ!」 


叫んだ途端、強烈な吐き気に襲われた。


「げ……ぇっ……」


胃の中のものが込みあげてくる。反射的に身を起こすと、口元に盥(たらい)が差し出された。


「出しなさい、楽になるから」

「げ、ほ……っ。はっ。はぁっ」


胃液が喉を焼く。痛みに咽ながら、発作のように繰り返す吐き気に耐えた。

あたしは眠っていたのらしい。
清潔な真白のシーツが、涙で滲んだ視界の隅に見えた。

ということは、あれは夢? 一体、どこから、どこまでが夢?
混乱しながら数回に渡り嘔吐したところで、ようやく息をつけた。

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