午睡は香を纏いて
「冷たい水よ、飲みなさい」

「あ、ありがとうございます」


なみなみと水の注がれた木杯を差し出される。
甘やかな香りが鼻をくすぐって、奪い取るようにして飲んだ。
痛んだ喉にひんやり流れこむ水は美味しかった。一気に飲み干してから、肩で息をついた。


「は、あ。ありがとうございまし、た……」


横にいた人に顔を向けて、は、とした。
そこには、酒場で会った占い師がいたのだ。

あのときと同じ、真っ黒なローブを纏っている。顔かたちはわからないけど、間違いない。あの時嗅いだ、麝香に似た香りがした。


「あなた……あのときの、占い師、さん」


ローブがふわりと揺れた。現れた白い手が、半球の対珠をちらりと見せる。


「ね? 川岸に辿り着けたでしょう?」

「……! あ、あれ?」


体を見下す。セルファの作ってくれた衣装ではない、生成りの服に着替えさせられていた。


「血塗れだったから、着替えさせたの。これは、その時に回収させてもらったわ。
でも、よかった、貴方がきちんと持っていてくれて。これがなかったら、貴方を転送できなかったもの」


きらりと光る対珠。持っていたことすら忘れていた。あのとき溢れた光はこの対珠から発せられたものだったんだ。


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