午睡は香を纏いて
顔を上げたゼフさんは、あたしを見て、ほんの少し眉を下げた。


「おや、何やら愛らしくなられましたな。以前は美女、というようなお姿でしたが」


びじょ。それはあたしには縁遠い言葉ですが。
地味な顔立ちなのは、毎日鏡で確認してるし。

しかしレジィはにこにこと、


「はは、可愛いだろ」


などと恥ずかしいことをいう。
それを聞いたゼフさんはうんうん、と納得するかのように頷いて。


「そうですな。しかし、話に聞いていても、目の当たりにすると驚くものですな。転生などとは。
ええと、今のお名前はカサネ様、と仰るのでしたな」

「え? あ、はい」


あれ、この人にはまだ自己紹介してないのに。そう思ったのに気付いたのか、


「ゼフはライラの父親なんだ」


とレジィが教えてくれた。


「え」


この厳めしい人が?
何というか、似てない。

ライラはかわいらしかったけど、目の前にいる人は何というか、怖い。
見た目は申し訳ないけど、熊みたいだし、声は低くてドスがきいてるし。


「ライラは母ちゃん似なんだよ。顔が凶器のゼフに似てなくてよかったよな」

「長、酷い言い様ですな」


ゼフさんは太い眉を下げて、拗ねたように言った。
と、は、と表情を改めて言った。


「無駄口を失礼しました。長、手負いの鷹が戻りました」

「なんだと」


レジィの顔色が変わった。


「鷹に書簡は?」

「何も。片目を射られており、先ほど絶命しました」

「ムスクの鷹か」

「間違いないかと」


がらりと雰囲気の変わった二人に驚く。
鷹って、さっきレジィが言っていたよね。
確か、危ないときには鷹が先に来る、とか。
その鷹が傷を負ってきたってことは……、危ない、の?
 
ぞわ、と不安が襲ってきて、どうしていいのかわからないまま立ち上がった。



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