午睡は香を纏いて
じわりと涙が滲みそうになるのを、慌てて拭った。
一人で盛り上がって、沈んで、あたしってなんでこんなに面倒くさい子なんだろう。
自己嫌悪に苛まれながら、意識して、声を張った。


「う、馬を換えなくても大丈夫? それに、十分寝られたから飛ばしていいよ」

「お? ああ、そうだな。換えるか」


ぽんぽん、と柔らかく頭が揺らされる。
どうやらあたしは、この手を気に入ってしまったらしい。
温かな手は気持ちを静めてくれて、今も沈んでしまった心をひょいと引きあげてくれた。


あたしってこんなに簡単に感情が左右されたっけ。
さっきまで泣きそうだったのに、手の温もりだけで笑みが浮かんだ。
嫌だな、これじゃ全くの子供みたいじゃないの。


自分でも現金だと思うけれど、この手から感じる優しさに、嘘や偽りはない気がする。


レジィは『サラ』の名残のない『カサネ』に失望したかもしれないけど、
でも、『カサネ』という子に対して、そんなに悪い印象を持っていない、のかもしれない。
レジィは嘘をつくような人じゃない。
それはこれまで過ごした時間で分かった。
疎んじている相手に、優しくなんてできないと思う。
だから、きっとあたしの勝手な思い込みなんかじゃない。


それにどうせ、命珠があたしから無くなれば、あたしには用がなくなるだろう。
レジィもあたしと共にいる理由がなくなる。
これは期間限定のものなんだから、その間だけでもこの気持ちのいい手を享受していてもいい、よね?


「ほら、来い。カサネ」


頭と背中のぬくもりが消えたかと思うと、すぐに手が差し出された。
その先には、翳りのない瞳がある。
あたしという存在に彼がどんな想いを抱いているのか分からないけど、でも否定はしていない。それがすごく、嬉しいと思う。


「うん。ありがとう」


その手を掴んで、笑った。



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