午睡は香を纏いて
「おや、男に転生したとは思わなかったな」
体勢を整えるのに必死になっていると、レジィのものではない、涼やかな声がした。
今まで誰もいなかったのに? というか、さっき、レジィは誰かの名前を口にしなかった?
未だ荒れる馬上に動揺しつつも、声のした方を見た。
あたしたちの正面、数メートルほど先の距離のところに、一人の男の人が浮いていた。
ゆったりとした白のローブを纏い、その裾はゆらゆらと蠢いている。
腰に届きそうな艶やかな黒髪に、白い肌。
切れ長の黒い瞳に、す、と通った鼻筋。
薄い唇は血色が悪くて、でも愉快そうに口角を上げていた。綺麗だといえる顔立ちだけど、でも底冷えのするような笑みを浮かべるこの人は。
「リレト、お前どうやってここに」
「自分を転送したのさ。そんなことより、その貧相な坊やが、あのサラなのかい?」
あたしを指さして、くすくす笑う。それは、楽しそうに。
この人が、リレト……? レジィの腕にしがみついたまま、あたしは真向っている男を見た。
「いいねえ。あの無駄な脂肪が無くなってすっきりしたじゃないか。
まあ、いささかすっきりしすぎだけれどね。
しかし、そうか。パヴェヌも粋なことをするね。面白くなりそうな年頃じゃないか」
「て、めぇ。わざわざ俺に切られにきたのか」
耳慣れない、金属が擦れ合う音がした。
すらりと視界に現れたのは、一振りの、剣。
レジィが背負っていた剣を抜いたのだ。
鈍い銀色の刀身は細く、その切っ先は差し始めた朝日を浴びてちかりと光った。
背中に感じる気配が、さっきまでと違う。びりびりと、空気を震わせているかのようだ。
体勢を整えるのに必死になっていると、レジィのものではない、涼やかな声がした。
今まで誰もいなかったのに? というか、さっき、レジィは誰かの名前を口にしなかった?
未だ荒れる馬上に動揺しつつも、声のした方を見た。
あたしたちの正面、数メートルほど先の距離のところに、一人の男の人が浮いていた。
ゆったりとした白のローブを纏い、その裾はゆらゆらと蠢いている。
腰に届きそうな艶やかな黒髪に、白い肌。
切れ長の黒い瞳に、す、と通った鼻筋。
薄い唇は血色が悪くて、でも愉快そうに口角を上げていた。綺麗だといえる顔立ちだけど、でも底冷えのするような笑みを浮かべるこの人は。
「リレト、お前どうやってここに」
「自分を転送したのさ。そんなことより、その貧相な坊やが、あのサラなのかい?」
あたしを指さして、くすくす笑う。それは、楽しそうに。
この人が、リレト……? レジィの腕にしがみついたまま、あたしは真向っている男を見た。
「いいねえ。あの無駄な脂肪が無くなってすっきりしたじゃないか。
まあ、いささかすっきりしすぎだけれどね。
しかし、そうか。パヴェヌも粋なことをするね。面白くなりそうな年頃じゃないか」
「て、めぇ。わざわざ俺に切られにきたのか」
耳慣れない、金属が擦れ合う音がした。
すらりと視界に現れたのは、一振りの、剣。
レジィが背負っていた剣を抜いたのだ。
鈍い銀色の刀身は細く、その切っ先は差し始めた朝日を浴びてちかりと光った。
背中に感じる気配が、さっきまでと違う。びりびりと、空気を震わせているかのようだ。