午睡は香を纏いて
「馬鹿だなあ。そんなものじゃ僕は殺せないって、知ってるだろう?」


殺気立ったレジィに反し、歌っているかのように軽やかに話すリレトは、きょろりとあたしを見た。
眼球だけを動かして、全身を見つめる。
そして、おや、と片眉を上げた。


「もしかして、女なのかい? かわいそうに、女ならばあの見てくれを失うのはさぞかし残念だろうね。
そうだ、僕が元の姿に戻してあげようか?」


言いながら、手を伸ばす仕草をした。
それから庇うように、レジィがあたしとリレトの間に入るように馬の位置をずらした。あたしを抱く腕に力が篭もる。


「お前にこいつは触れさせねえ」

「おやおや、怖いねえ。でも、君だって、サラの姿の方がいいんじゃないかい? 惚れていたんだろう?」


レジィの陰からリレトを見た。
この人には、嫌悪感を覚える。その姿を見ているだけで、肌が粟立つ。
この感覚は、あたしがサラだったことの証明になるのだろうか。いや、レジィの話を聞いていたから、それだけなのだろうか。

どちらにしても、嫌だ。この人から離れたい。


「お前に関係ない。死なないといったが、それでも傷はつくんだろう?
どれだけ切り刻めば動けなくなるか、試してやろうか」

「荒っぽいねえ、山賊の長は。痛いのはお断りだから、さっさと退散しようかな。
僕はただ、お戻りになった巫女姫に一言挨拶に来ただけだからさ。

お帰り、サラ。帰ってくるだろうと、思ってたよ」


会話をのんびり楽しんでいるかのようなリレトに、レジィが舌打ちした。


「怖い顔だなあ。もう帰りますよ。ただ、土産だけ置いて行こうかな」

「土産、だと?」

「そう。君だって、何事もなくオルガに帰るのも面白くないだろう?
あっさり戻っても、感慨深くない。
わざわざオルガから離れた場所に落としてあげたんだから、帰路をもう少し盛り上げてあげるよ」


ば、とレジィが周囲を見渡した。何かに気付いたその顔が歪められる。
その視線の先を見れば、遠くに土埃が舞っていた。
遠目に見ても、その中で揺れる影は十を優に越している。




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