午睡は香を纏いて
「ふふ、君のその顔、結構好きだな。さて、サラを庇いながらあいつらから逃げ出せるかな? 名を馳せた山賊の腕はいかほどか、といったところだね」

「お前、一体何がしたい?」


低く問うた声には怒りが満ちていた。あたしさえいなかったら、レジィは切りかかっていたに違いない。
レジィの体はその衝動を抑えて震えていた。
それに気付いているのだろうか。
リレトは大げさにため息をついてみせた。


「僕はね、この三年間退屈だったんだよ。本当に、本当に退屈だった。永遠の体も、権力も、名声も、簡単に僕のものになっちゃったんだよね。
人の命だって、指先を動かすより簡単に潰せる。そんなことにもう飽きてしまったんだよ。

でも、それがようやく楽しくなりそうだから、わくわくしてる。

まずは、生き残って見せてね。これくらいで死んだりしたらつまらないからさ。
そして僕の命を狙ってみてよ。約束だよ?」


怖い、と心底思った。穏やかな声で語りかけるように、理解できないことを言う。こんな人の命を守るものが、あたしの中にあるというの?


「さあ、そろそろ逃げないと。その馬たちは随分疲れているようだよ。
ここまで馬を何頭も換えてきたあいつらに、追いつかれちゃうんじゃないの?」


後ろから向かってくる一群を振り返る。確かに、その勢いはすぐにでもあたしたちに追い付いてしまいそうだった。


「行くぞ」


言うなり、レジィは鐙(あぶみ)を蹴り上げた。
嘶いた馬は、真っ直ぐにリレトに向かって行く。
すぐ目の前にその姿を捉え、ぶつかる、と思わず目を閉じた。

けれど衝突の衝撃はなかった。
土を蹴る足音だけが耳に入ってくる。恐る恐る見ると、開けた草原を、馬は全力で駆けていた。


「じゃあ、またね」


どこかから声が聞こえた気がした。さっきまで目の前にいたはずなのに。転送だなんて人外の力を持っているのだから、避けることなど簡単なんだろうか。



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